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2006年10月 アーカイブ

2006年10月23日

手段も評価の対象だ。

王子製紙による北越製紙へのTOBが、王子の断念と言う形でひとまず決着した。
その結果について様々な人が、各々の立場からコメントしているのはご存知の通りであるが、王子のとった対応そのものについても議論が分かれている。
インベストメントバンクやM&A業界人、多くの経済学者は、「王子は甘い。スピードが足りない。公表してから買い始めるのは愚の骨頂。差し止め請求をすべき。」等々とする。
これらはその視点を経済合理性に置いているため、必然的に王子の対応策が手ぬるいとの批判的なコメントなる。
一方、中には、「王子の対応はさすが業界の雄。大人の対応。」として、「TOBは失敗したが、企業評価にはそこそこ貢献したのではないか。」という意見がある。いわば、「相撲に勝って勝負に負けた」と。
この評価の違いはどこからくるのか?それは「手段」に対する評価の違いからくる。即ち「目的のためなら手段を選ばない。」ことをどう捉えるかである。
前者は、極端な話、法律を守れば良い。それに対し後者は法律以外にも、商道徳、倫理、感情等にまで、評価基準は広がる。
後者は前者よりも明らかに非効率である。しかも基準はTPOで変わり、その主張は今ひとつ歯切れが悪く見える。討論などでも劣勢だ。
しかし、それを非効率といって良いのか? 効率の時間軸はどうなっているのか?
TOBに限らず企業の円滑な事業展開に際し、目的実現のために採用する手段が社会からどのように評価されるかが、ますます重視されてきている。劇場型社会のなせる業だろう。
信じ採用する手法が、社会から信任されるためには、日頃から「あの企業なら、中長期的に見て企業価値を向上させるはず。」という信頼を醸成し世論を形成しておくことが必要だ。
正に日頃の広報・IR活動を、戦略的かつ丁寧に行うことが求められているのである。


加藤正明(アレックス・ネット株式会社 代表取締役)
企業価値と投資価値向上の手段としてのIRを、より尖らせるべく奮戦中

2006年10月24日

アニュアル・レポートの3分間バトル

このほど英国IR Magazine誌は、同誌が選んだベスト・アニュアル・レポート40誌を対象に「3分間テスト」なるものを行った。3分という短時間にどれほどうまく自社の魅力や競争優位性を伝えられるかを評価するものである。起業家が投資家から資金を獲得するために行う「エレベータ・ピッチ」※と同じ発想である。さて、レポートの作り手と読み手の「3分間バトル」の勝利を決定付けるものは何なのか?
最高得点を獲得したのはコミュニケーショングループ大手の英国WPP社。冒頭に「早読み」セクションを設け、事業の内容、経営の考え方、当期の概況を簡潔かつわかりやすくまとめている。インパクトのあるタイプフェースと歯切れのよいワーディングで、読者の関心を引き寄せることに成功しているのはニュース配信大手のロイター社。いずれも表現やデザインで読者の視点を誘導している。
内容ありきの直球勝負も読者には響くらしい。余計な情報を省いて投資家が求める情報にフォーカスしたのは建材大手Woleseley社。「今日の顧客ニーズが未来の組織を創る」とのコピーで始まるCEOメッセージは、1ページで業績総括、組織改変、配当、ボードなど必要最小限の内容が簡潔に語られる。CEOが経営のグランドデザインを提示し、各事業のトップが詳細を語る展開である。
壮大な夢の実現をアニュアル・レポートという小世界に纏め上げているのはIR優秀企業の常連であるGE。エコマジネイション(ecomagination)といわれる社会・環境に配慮した経営観を全面に出す展開が、CSR重視の経営姿勢の表れであるとの意見と、新手のPR手法であるとの意見に分かれたが、高度な表現的技巧と明確な戦略が完成されたストーリーとして読者に語りかけてくるのは確かだ。

※ Elevator pitchとは、エレベータが目的階に着くまでの短時間で、自分のアイデアを的確かつ完結に伝え、「続きが聞きたい」と思わせる効果的なプレゼンテーションを行うこと。


山本章代(アレックス・ネット株式会社 取締役)
海外企業のIRに詳しい。宣伝会議の「PRIR」誌に「海外企業のアニュアルレポート解説」を連載。(2005年4月〜2006年4月)

2006年10月25日

証券市場における誤解

どこの上場企業でもここしばらくのブームとして、個人株主を増やすためのIRを強化してきた。そこに、オンライントレーディングや証券税制の優遇策などの環境的な後押しもあって、個人株主というか、株式投資初心者がこれまでにない程のスピードとボリュームで増えてきた感は否めない。

 しかし、これには大きな落とし穴があったことを最近の上場企業は気がつきつつある。メインバンクを中心とした企業同士の株式持合い解消の受け皿であった筈の個人株主は、気まぐれな存在であり、株価が上がれば今度はいつ下がるのかと心配し、株価が下がれば、その企業に対して文句をいう。まさに一喜一憂して、ジタバタして、しかも長期保有するのではなく、むしろ短期で売買する個人株主に振り回されている企業IR担当者が多いのが実情だ。

 さらに、問題なのは、『モノをいう株主』という意味をはきちがえている一部の初心者株主が目立つことである。株を保有することは、その企業のオーナーの一員となり、その企業の成長によってインカムゲインやキャピタルゲインを享受する権利を得ることである。そこにあるのは、自己責任原則である。しかし、そのことを理解している株主が大半だとは思うが、中には、株価が低迷していると、すぐに企業のIR担当者に電話やメールでその理由を聞こうとする株主もいる。

尤も、その逆もある。企業側の情報発信に問題があるケースだ。企業からの情報発信でいたずらに株主を恐れているケースも見られる。したがって、株主から質問される。そのことを、先程の、一部のクレーマー株主とひとくくりにしてしまうから、余計にこの話はわかりにくくなる。大多数はまじめに投資しているのに、一部のクレーマー株主によって、個人株主そのものが非常に扱いづらい存在となってしまうのだ。

企業が個人株主に、理解しやすい表現で積極的に情報開示をして、その公表された情報を元に、投資判断を個人株主がしていけば、このようなお互いの無駄なエネルギーと時間を消費することはなくなる。その立場の善循環こそが重要なのである。(そのようにナビゲートすることが、私達IRコンサル会社のビジネス領域なのですが・・・)

 残念ながら、健全な株式市場が形成されるには、今しばらく時間がかかるのであろう。
なぜならば、株主も企業も証券市場もこのような環境は初めてだからである。理想的なことをいうならば、自己責任原則という投資の憲法を株主が理解し、企業は投資家を恐れることなく、積極的に情報開示を進める。そうすれば、上記のような一部の株主の行動もなくなり、企業も積極的に証券市場を意識した情報提供をするようになるだろう。そのときこそ、本当の意味でのIR活動が問われるときなのかもしれない。


大坪和博
 『金融から怪獣』をIR目線で日々研究してます。

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