どこの上場企業でもここしばらくのブームとして、個人株主を増やすためのIRを強化してきた。そこに、オンライントレーディングや証券税制の優遇策などの環境的な後押しもあって、個人株主というか、株式投資初心者がこれまでにない程のスピードとボリュームで増えてきた感は否めない。
しかし、これには大きな落とし穴があったことを最近の上場企業は気がつきつつある。メインバンクを中心とした企業同士の株式持合い解消の受け皿であった筈の個人株主は、気まぐれな存在であり、株価が上がれば今度はいつ下がるのかと心配し、株価が下がれば、その企業に対して文句をいう。まさに一喜一憂して、ジタバタして、しかも長期保有するのではなく、むしろ短期で売買する個人株主に振り回されている企業IR担当者が多いのが実情だ。
さらに、問題なのは、『モノをいう株主』という意味をはきちがえている一部の初心者株主が目立つことである。株を保有することは、その企業のオーナーの一員となり、その企業の成長によってインカムゲインやキャピタルゲインを享受する権利を得ることである。そこにあるのは、自己責任原則である。しかし、そのことを理解している株主が大半だとは思うが、中には、株価が低迷していると、すぐに企業のIR担当者に電話やメールでその理由を聞こうとする株主もいる。
尤も、その逆もある。企業側の情報発信に問題があるケースだ。企業からの情報発信でいたずらに株主を恐れているケースも見られる。したがって、株主から質問される。そのことを、先程の、一部のクレーマー株主とひとくくりにしてしまうから、余計にこの話はわかりにくくなる。大多数はまじめに投資しているのに、一部のクレーマー株主によって、個人株主そのものが非常に扱いづらい存在となってしまうのだ。
企業が個人株主に、理解しやすい表現で積極的に情報開示をして、その公表された情報を元に、投資判断を個人株主がしていけば、このようなお互いの無駄なエネルギーと時間を消費することはなくなる。その立場の善循環こそが重要なのである。(そのようにナビゲートすることが、私達IRコンサル会社のビジネス領域なのですが・・・)
残念ながら、健全な株式市場が形成されるには、今しばらく時間がかかるのであろう。
なぜならば、株主も企業も証券市場もこのような環境は初めてだからである。理想的なことをいうならば、自己責任原則という投資の憲法を株主が理解し、企業は投資家を恐れることなく、積極的に情報開示を進める。そうすれば、上記のような一部の株主の行動もなくなり、企業も積極的に証券市場を意識した情報提供をするようになるだろう。そのときこそ、本当の意味でのIR活動が問われるときなのかもしれない。
大坪和博
『金融から怪獣』をIR目線で日々研究してます。