今回は英国IRマガジンが毎年発表する世界のIR優良企業賞の審査講評を紹介する。同誌がコメントするように、世界中の投資家、アナリスト5000名以上を対象としたIR実態調査は、世界中のベストプラクティスを世に知らしめると同時に、IRが抱える重要な課題を浮き彫りにするという意味で極めて有用である。
1.情報は頻度か、内容か?
米国のセルサイド、バイサイドともに8割近くが、企業から配信される日常的なIR情報に満足する一方で、ネガティブ情報の配信においては情報の配信回数より、中身を重視して欲しいとの要望があるという。何度もコメントするより、一度で正確な情報を配信するほうが評価されるということだ。
2.各国様々なIROとマネジメントの関係
「IROはマネジメントに直接市場の意見をフィードバックすべきか」との質問に対し、米国の市場関係者の過半数が「そうすべきである」と回答している。一方、カナダではCFOを介してマネジメントにフィードバックするのが一般的で、こうした質問自体に戸惑いを見せている。英国ではCEOによる過剰サービスとも言えるIRに「経営は大丈夫なのか」といった懸念を抱く声が多くなっているという。
3.ボードメンバーに一定数の女性とマイノリティを選出すべきか
ボードメンバーに女性とマイノリティが少ないのは世界的傾向であるが、これは問題視すべきか?ノルウェイやスウェーデンでは取締役会における一定数の女性選出を義務付けた法案が提出されたという。北欧の市場関係者は、取締役会メンバーの多様化には賛成するものの、法案に対する反応は冷ややかだ。回答者の多くが「女性であること」よりも「資質」で判断すべきであるとコメントしている。
まさに各国各様に試行錯誤している様子が伺われるではないか。
情報配信の頻度と内容に関して言えば、どちらも重要な要素だ。しかしIRにおいては適時性、公平性、正確性という原則は守りながらも、会社の置かれた状況から、市場の信頼に足るコミュニケーションとは何かを常に考えて行動しなくてはならない。適時性を追及するあまり、正確性が犠牲になれば市場からの信頼は得られない。未決事項が多いニュースを拙速に配信しても、それは投資判断材料としては有用性が低い。市場から信頼を獲得するには企業自らが主導権を握り、状況を正確に把握し、タイムリーに開示すべきか、あるいは時間をかけてより正確な情報を提供するかについて判断する必要があろう。そのためにはきちんとした開示方針の確立が重要と考える。
IROとマネジメントの関係については、日本においてはトップ直結のIRが多くなりつつある印象を持つ。これはトップとの直接コンタクトを求めるマーケットからの要請が強く反映されているのだろう。しかし英国の市場関係者が懸念するように、トップの本業は「経営」である。市場からのフィードバック機能が確実に担保されていれば、必ずしもトップ自らがすべてのIRをこなす必要はないのではないか。CEOがIRに費やす時間と業績の関連性を調査したら興味深い結果になりそうだ。
最後にボードメンバーについてであるが、性差や人種を基点とした議論は間違いである。そもそも性差や人種を代表することが会社経営における最良の「解」を引き出すものではない。そこには会社の利益を代表するプロフェッショナルが必要だ。とは言っても女性やマイノリティのボードメンバーが少ない現状であることは事実であり、むしろ性差や人種を超えて、あらゆる人々にボードメンバーの候補者となる機会、つまり上級管理職へのキャリアパスを確保できる仕組みを作るほうがマネジメント層の人材難を解消する上でも重要であろう。
山本章代(アレックス・ネット株式会社 取締役)
海外企業のIRに詳しい。宣伝会議の「PRIR」誌に「海外企業のアニュアルレポート解説」を連載。(2005年4月〜2006年4月)