1939年1月場所4日目、双葉山は安藝ノ海に70連勝を阻止された時、勝負終了の土俵上で、いつもと変わらず穏やかに礼をした。あまつさえその日の夜、師と仰ぐ安岡正篤に「我未だ木鶏たりえず」と打電したのは有名な話である。
70年近く前のこの逸話が、未だ日本人の間で根強く語られ続けるのは、この時の双葉山の「姿・振る舞い」が美しい、卑近な言葉で言うとカッコイイと思っている人たちが多いことの証左といって良い。そして、自ら行うのは難しい、出来ないということとほぼ同義であろう。
普通の人は、勝てば喜びガッツポーズをし、負ければシュンとして落ち込む。王監督が中学生だか高校生の頃、試合に勝って派手に万歳をした時、兄の鉄城氏から鉄拳で殴られたそうな。曰く「負けた人の気持ちを考えろ!」と。それ以来王監督は、ホームランを打っても、試合に勝っても決して派手なパフォーマンスをしなくなった。確かにホームラン世界記録樹立のときも、ピッチャーに向けてではなく観客に対して控えめに両手を上げただけだった。
さて、或る外食企業の有価証券報告書、決算短信を過去6年間分見ていた。事業環境が厳しい外食業界のご多分に漏れず同社も厳しい決算が続いているが、業績が悪くなったのは2002年3月期からである。当然の事ながら株価はその1年以上前から大幅な下落傾向になっている。
業績が悪くなり始めた2002年版有価証券報告書の「事業の状況」では、「厳しい決算を迎えることになりました。」と率直にコメントしている。さらに「売上、利益、共に年度計画を下回った決算は今期が始めてであります。」と書かれている。直向な感じがするコメントである。(細かいことを言うと「今期」ではなく「当期」)
翌2003年は経常利益、当期利益ともに減少したが、この年の有報でも、「前年実績を下回る結果となりました。」と記載してある。
一方、翌年の2004年3月期の有報。この年も経常、当期利益共に減少している。しかし、定性的記述は「増収減益となりました。」と書かれている。
ただし、この会社の売上高はこの間も増加し続けている。穿った見方をすると「減益」を「増収」と、初めてセットにしたようだ。(外食だからか)
2005年は、経常は増益となったものの当期利益は減少したにも拘らず、概略的な定性コメントはない。そして、再び経常、当期利益共に減少した2006年3月期。2005年同様業績の概略を伝える定性コメントはなかった。淡々と売上高〜当期純利益の数値が載っているだけである。
ここの会社は業績が良かった時は、IR活動も熱心でその評価も高かった。しかし、最近ではその評価も今ひとつのようである。私はここの会社の社長とは何度かお会いしたことがあるが、アグレッシブ、かつ真摯・紳士であった。また、社員の方々も大きな声で挨拶してくれたのが印象にある。
業績が良くても悪くても立ち位置を変えずに淡々と、しかもかつてのような高いレベルのIR活動を続けて欲しいと思う。そして、回復の確信が持てた時、業績を先取りする表現が表れることを期待したい。
では、これからこのお店に呑みに行ってきます。
加藤正明(アレックス・ネット株式会社 代表取締役)
企業価値と投資価値向上の手段としてのIRを、より尖らせるべく奮戦中