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2007年10月 アーカイブ

2007年10月09日

ヘッジファンドはIR担当者の頭痛の種か?

アクティビストファンドの活発化・三角合併の合法化などを受けて、このところ日本では、以前にも増して企業買収やヘッジファンドへの警戒が高まっているが、NIRI(全米IR協会)発行のIRアップデート2007年8月号において米国企業のIR担当者がヘッジファンドをいかに無用に恐れているかを示す特集記事が掲載されていたのでご紹介しようと思う。

ヘッジファンドのターゲット
 (ヘッジファンド試算より)株価が割安。
 低いPBR。
 技術系会社ではない。(R&D支出が大きいため)
 テイクオーバーディフェンスに積極的。
 CEOの給与が同規模の企業より高め。
 資本規模で上位20%に入らない。
 機関投資家保有比率およびアナリストカバレッジが高い。

ヘッジファンドの実態(Duke大学Alon Brav金融学准教授らの研究より抜粋)
 解体屋との違い:少数保有(10%前後)のもとカイゼンによる収益志向。
 敵対的行動:全体の26%。
 株価収益率への影響:平均7%上昇し、その後も水準維持。
 企業売却・買収の成功率:第三者への売却は47%、買収は37%成功。
 株式保有期間:約1年間

これらの特長を踏まえ、実際のIR担当者が取るべき対応を以下の通り列挙している。
 敵を知るべし。戦略IR・コミュニケーションコンサルティング会社の創業社長であるLuthCommunications LLCのJeff LuthによるとIR担当者は、経営者に対しヘッジファンドにつき理解を促すことであるという。すなわち日頃から彼らの投資スタイル・平均保有期間・自社にとっての重要な事実を知らせておくことである。
 冷静に接するべし。ForeSight ConsultingのIRコンサルタントDustin Weeksは「CEO、CFO等実際にヘッジファンドが接触してきた場合スポークスマンになる立場の役職者には、『普通にしている』ように伝えておくように」と言っている。すなわち「仮に相手の態度が攻撃的であっても、通常同様にプロとしての冷静な態度で求められた情報を提示するように」ということである。更に「自社の戦略や経営計画が投資家の納得を得られる合理的なものだと確信があれば、『今後の計画やその背景および実行の意思』という点を強調するとよい。」とも付け加えている。
 四半期カンファレンスコールをだれが聞いていたのかを知っておくべし。
 ヘッジファンドを十把一絡げに捉えるべからず。ヘッジファンドには乗っ取りを企てたり、利益獲得のため企業価値を毀損しようとしたりなどでIR担当者や経営陣に会いたがらないものもいれば、長期保有の視点から改善計画を提示し、金融コミュニティから尊敬されているものもいることに注意が必要。
 時間をうまく使うべし。1対1のミーティングを持つ時間がとれず、長期保有が期待できないファンドがミーティングを求めた場合、数社と一度に会えばよい。ただしアカデミックな調査により明らかにされているように『アクティビストヘッジファンドは超短期志向ではない』ということは念頭におくべきである。

以上のレポートを見ると読者は何ら特別な対応がないと不安に思われるかも知れない。本稿の目的は正にそこにある。しっかりとした経営・透明性の高い開示活動・落ち着いた対応、すなわち本来のしっかりしたIR活動がヘッジファンドへの最良の対処策であるということである。


Hiroshi(アレックス・ネット株式会社 IRプロデューサー)
戦略系コンサルタントの経験を活かし、分析を踏まえた独自の視点からステークホルダーとのコミュニケーションを支援。

2007年10月12日

「税理士卵ブログ」

IRのコンサルを始めて一年がたった。その間に、議決権行使プログラムの遂行・株主総会運営サポート、株式公開前IRコンサル等を経験させてもらったが、IRに携わる者として金商法(旧証取法)・会社法・経済・財務会計等、知っておくべき内容の幅広さに驚いた。IR担当者の過去の職歴は、企画が39.5%と最も多く、続いて経理・財務(36.1%)、営業(35.5%)、広報(24.7%)、総務(21.2%)*との調査があり、多くの方は常に勉強中という場合も多いのではないのだろうか。このブログにおいては、新人IR担当者や、新社会人などを対象とし、財務会計のテーマから、財務分析、証券分析、経済、会社法等と幅広く思ったことを記載しようと思う。
さて、今回は財務会計のテーマからはじめようと思うが、そもそもなぜ財務会計(簿記)が存在するのだろうか。それは一般的に、利害関係者(株主や債権者・国やアナリスト等)に対し、企業の財政状態や経営成績を明らかにする事であると言える。財務会計は、株主にとって投資した資金が効率よく使われているのか、債権者にとって債権の回収が図れるのか、国にとって適正な課税を行うため、アナリストにとって企業の収益性や成長性を確認するための重要なツールとなる。例えば、個人で言えば素性の分からない者に対して金銭の貸し借りは行わないのと同様に、企業においても、取引を円滑に行うため財務会計は重要な位置づけになるのである(上場すればなおさら)。
ちなみに、簿記というのは複式簿記が採用されており、取引を記載する際には必ず貸借(右と左)が一致するようになっている。簿記の記録においては、全ての項目が、資産・負債・純資産・収益・費用に区分され、資産・負債・純資産は貸借対照表として、収益・費用は損益計算書でそれぞれがまとめて表示されることになる。
又、企業は利益を得るため事業活動を行うため、その過程において様々な事柄が生じる。クライアントと取引を行ったり、新規投資を行ったりである。しかし簿記においては、その取引(事象)の全てを記載するのではなく“簿記上の取引”だけを記載する。いわゆる記帳のルールでもあるのだが、“簿記上の取引”とは、企業の資産・負債・純資産が増減変化する事柄を言う。一般の取引との相違としては、下記の3通り存在する。
①一般でも簿記上でも取引になるもの
②一般には取引というが、簿記上の取引にならないもの
③一般に取引といわないが、簿記上の取引になるもの
上記の①は、商品の売買や諸費用の支払などがある。これらは、一般の取引になるが、企業の資産・負債・純資産が増減変化するため(商品を買えばその分現金が流出する)簿記上の取引にも該当することになる。②は、契約や口約束を言う。例えば建物や土地を借りる契約を結ぶ、仕入先に商品を電話で注文する等であり、これらの事象は資産・負債・純資産が増減変化しないため簿記上の取引に該当しない。③は、盗難や災害による損失等を言う。これらは一般の取引とは言わないと思うが、企業の資産・負債・純資産が増減変化するため、簿記上の取引となる。
一見複雑だが、慣れてくるとこれが直感で理解できるようになるものである。ある大手企業では、新入社員に簿記の研修を行っているようだ。企業を見る目の基礎を養うことができるので、是非これを機会にちょっとでも理解してもらえれば幸いである。終わりに、いくつかクイズ形式で問題を記載するので、確認の意味でも復習していただければと思う。
*日本IR協議会調べ

Q:下記の(1)~(5)のうち、簿記上の取引になるかどうか、検討してください。
(1) クライアントに対し、1ヵ月後に資金を貸与する口約束をした。
(2) 地震により、社長室にあった高級絵画が破損した。
(3) 金庫に100万円を入れていたが、久しぶりに確認をしたら90万円しかなかった。
(4) 従業員を年収500万円の給料で雇い入れた。
(5) 従業員の日ごろの労をねぎらい、年末に社員旅行に行った。


今野 祐希
会計・税務の目線でIRを斬る税理士の卵。趣味はツーリングとサーフィン。

解答はこちら

2007年10月24日

投資情報の活用について

 新規上場を目指す企業にとって上場申請資料作成は上場の最終段階にそびえる大きな山だ。中でも市場によっては上場申請のための報告書、いわゆるⅡの部作成を義務付けているが、そこには経営理念に始まり事業戦略、営業、研究開発、管理の現状、さらには自社の強み弱み、リスク要因等々について詳細に記載しなければならない。
 「収益拡大最優先!」の号令一下、死に物狂いで走ってきた多くの若い企業にとって、おそらく後回しにされたであろう理念や管理面の記載は、実に大変な作業となる。しかし、Ⅱの部作成を通じて初めて上場企業、即ち社会的公器としての企業の自覚を持つ経営者もいることからも判るように、投資家のみならず創業者、経営者達にとってもⅡの部作成の過程を経ることは極めて有益である。
 中でも、当社の強み、競争優位性の項目が重要だ。この項目について「いくらでも書けるが、敵に(競合企業に)塩を送ることは企業価値向上にはマイナスなので小出しで書く」という企業であれば良いが、「書きたくても書くネタが少ない」企業も無いことは無く、それは書かれた結果だけを見ても一目瞭然である(因みに当社の顧客は全て前者です。念のため)。そして、上場後における前者の株価と後者の株価では、明らかにその軌跡は異なる。
 ただ残念ながら、Ⅱの部はあくまで上場審査用として取引所に提出するものであり、一般の投資家は見ることが出来ない。しかし、最近は以前とは様変わり。当局、企業、そして投資家の尽力により制度開示も格段に充実した。例えばアナリスト向け説明会用プレゼンテーション資料が各企業のホームページで概ね閲覧可能になっているが、成長企業のその資料にはⅡの部のエッセンスが詰まっているのである。次回はこの説明会資料について、私なりの見極め方をコメントしたい。


加藤正明 (アレックス・ネット株式会社 代表取締役)
企業のIR支援で蓄積したノウハウを、企業のみならず個人投資家支援にも活かしたいと奮戦中。

2007年10月29日

東京モーターショー、水面下のバトル

 先週末から「東京モーターショー」が開催されている。日産の「GT-R」の復権が、今回のモーターショーの目玉の1つであることは、様々なマスコミが報じている。ゴーン社長の得意満面な笑顔とともに、新型GT-Rが登場するVTRを見て、「これは本気だ!」と、私は感じ入ってしまった。

 しかし、気がかりな新聞記事を目にした。2005年の前回に続いて、米ゼネラルモーターズ(GM)など米国メーカーの首脳は、開催に先立って姿を見せなかったとのことらしい。日本での販売不振がその背景にある。米国メーカーのターゲットはずばり「中国」。確かに、中国を始めとした新興国のモータリゼーションは今始まったばかりで、爆発的な販売台数を誇っている。いまや、世界のクルマメーカーは、中国市場を無視できない存在といえよう。その中国で好調なのがGMである。むしろ、その目は、上海モーターショーや08年初めのニューデリーショーにいっているとのこと。東京モーターショーが、デトロイト、フランクフルトと並ぶ3大モーターショーといわれて久しいが、その「東京モーターショー」のポジションが、GMを始めとした米国メーカーの動きから危うくなるという懸念だ。

 米国勢からは上海モーターショーと統合してはどうかなどという「打診」らしきものまできているらしい。同時期に2つの都市で開催するのは、現実にはかなり無理があるなとは思うが、日本の国内販売の不振が続くようであれば、外国勢は少なくとも、自社の販売が好調な新興国にセールスの軸足を動かすのは自明の理である。そうなれば、東京モーターショーに参加する理由もなくなる。東京モーターショーといえば、コンパニオン等の色気とは別に、メーカー同士のコンセプトカーのバトルが入場者・マスコミ関係者の楽しみでもあったが、それも、市場規模が大きい新興国に奪われていくのかなぁという思いがある。

 最も、今回のモーターショーでは、クルマ復権へ「性能」「環境」などといった新聞での見出しをみると、国内の自動車販売はメーカーの見通しよりもかなり下振れしている状況が見て取れる。また、20-30代の若年層のクルマへの消費が落ち込んでいるらしい。

 この背景にあるのは、若年層も含めた人口の都市部への集中し公共交通機関が発達したことによってクルマでの移動自体が少なくなってきたこと、原油高騰に伴うガソリン代の上昇、そして高速道路の利用料金等が高止まりしていること等が考えられる。また、クルマを持つこと自体に対するステイタス性もなくなりつつあるらしい。あるアンケート結果によれは、「クルマはデートの必需品」という回答はわずか1%とのこと。確かに都心であれば、別にクルマがなくても、エンターテイメントを楽しむことは十分にできる。クルマをもつことが夢であった私達の世代からすると、この現象はいささか奇妙に映るが、これが、昨今の若者の姿らしい。クルマメーカーの苦悩とは、若年層に対して、クルマをもつ楽しさや喜びから醸成していかなくてはならないというセールスの前の啓蒙活動も含まれるというところにあるのかもしれない。

 今回の東京モーターショーでの各メーカーからのメッセージが、今後どのように企業戦略として進化し結実していくのか、注意深く見守っていく必要がある。それは、クルマという消費財だけではなく、あらゆる消費財にあてはまるケーススタディとなるからだ。

 それは、市場規模では、明らかに新興国の方が日本よりも上回る時代がくる。その時、日本はどのような対策を打つべきかというケーススタディだ。ユニバーサルデザインといわれて、新興国マーケットの動向に追従した製品・サービスが氾濫してしまうのか、それとも独自の技術や文化を醸成し新たな価値を輸出する国としてあり続けるのか、クルマメーカー各社を通じ、どの戦略が最も企業価値を高める方策となるのかを見極めたいと思う。


大坪和博(アレックス・ネット株式会社 取締役)
『金融から怪獣』をIR目線で日々研究してます

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